腸内バクテリアと自閉症の関係を研究
うつや不安に関する研究は多岐にわたりますが、現在では「腸内バクテリアが精神の不安に結びついている」ということも分かっています。

臆病なマウスに冒険好きのマウスの腸内バクテリアを移植すると行動が変わったり、自閉症の行動が腸の状態が変化することで変わったりなど、現在行われている研究の一部をCBC Newsがまとめています。

Gut feeling: How intestinal bacteria may influence our moods – CBC News – Latest Canada, World, Entertainment and Business News
http://www.cbc.ca/news/gut-feeling-how-intestinal-bacteria-may-influence-our-moods-1.2701037

マックマスター大学の消化器病学者であるStephen Collins教授は「慢性的に腸の調子が悪い人は精神的にも不安を抱えていることが多いのですが、これまでその原因は謎でした」と語りました。

私たちの下部胃腸管にはバクテリアを中心とした約100兆の微生物が住んでいます。

それらの多くは消化を助け、エネルギーを作り出し、病気の原因となる悪いバクテリアを排除してくれるものですが、時によって内臓の動きを悪くし脳にまで悪い影響を与えることもあります。

例えば下痢や便秘・ガス過多による下腹部の張りなどの症状が起こる過敏性腸症候群を経験した人の80%が不安とうつに悩まされます。

また自閉症の人の腸内バクテリアは異常といえるレベルにまで数が増えることが多いとのこと。

Collins教授らが2013年に行った研究からは、腸内のバクテリアの種類を変えられたマウスは振るまいが変わるということが分かっています。

実験では臆病なマウスと冒険好きなマウスの2種のマウスを用い、一方のマウスの腸に存在したバクテリアをもう一方に移すということが行われました。

はじめ冒険好きのマウスは暗い場所に入れられると柵の中を光を求めて動きまわっていたのですが、臆病なマウスのバクテリアを腸に入れられると暗闇の中の探索をやめたとのこと。

反対に、臆病なマウスに冒険好きのマウスの腸内バクテリアを移したところ、冒険好きなマウスがそうだったように大胆な行動を起こすようになったそうです。

Collins教授によると、これは脳由来神経栄養因子(BDNF)と呼ばれる、脳内の神経細胞の成長促進や維持を行うタンパク質のレベルが上昇したことが原因と考えられています。

マウスは人間ではないので、Collins教授の研究によって腸のバクテリアが直接的に人間の精神に作用するとは言えません。

しかし、自身のことを「懐疑的」だと称するカリフォルニア大学のEmeran Mayer教授も「動物の実験で得られたデータのいくらかは人間に対しても通用する」と認めています。

Mayer教授は腸内のバクテリアと人間の脳のつながりを証明した人物。

2013年にMayer教授らによって発表された研究では、体にいい影響を与える微生物「プロバイオティクス」を含んだ発酵乳を健康な女性12人に1日2回・4週間にわたって摂取してもらい、他方で別の女性11人にプロバイオティクスを含まない牛乳を1日2回・4週間にわたって飲んでもらいました。

Mayer教授は実験の前後に女性たちに恐れや怒りを感じている人の写真を見せながら脳スキャンを行ったのですが、実験後、プロバイオティクスを摂取したグループの女性は恐れを感じる顔に対しての反応がプロバイオティクスを摂取しなかったグループと比較して減少していたとのこと。

「プロバイオティクスを摂取した女性たちはネガティブな感情を『恐ろしいもの』として知覚しないようになっていたのです。

また彼女たちの脳はストレスに対して反応しにくくなっていました」とMayer教授。

プロバイオティクスを摂取した女性たちは実験後とくに気分の変化を伝えませんでしたが、不安やストレスには苦しまなかったそうです。

Mayer教授らは現在、自閉症の子どもを対象に腸内バクテリアを移植するなど、さらなる研究を続けています。

さらにカリフォルニア工科大学で研究を行う神経生物学者のElaine Hsiao教授も腸内バクテリアが自閉症に与える影響について調べる1人です。

人間と同様に自閉症のマウスにおける腸内にも異常が起こっていることがあります。

オモチャと他のマウスという2つの選択肢が存在する箱にマウスを入れた場合、自閉症でないマウスは他のマウスと遊ぶという選択肢を選び、自閉症のマウスはオモチャを選ぶ傾向があるのです。

また仲間内で会話を行う場合、自閉症のマウスは仲間を呼ぶ声が小さく短いということ、さらに木の削りくずと大理石が入った瓶の中にマウスを入れると、自閉症でないマウスは大理石を削りくずの中に埋めるのですが、自閉症のマウスは大理石を埋めたり掘り返したりを繰り返すということも分かっています。

そこでHsiao教授が自閉症のマウスに3週間にわたってバクテロイデス属のバクテリアを含むアップルソースを投与したところ、いくつかのバクテリアの値が正常に戻り、マウス自体の振るまいも変化しました。

バクテリアを含むアップルソースをマウスに与えたところ、自閉症のマウスは大理石を埋めたり掘り返したりという行動をやめ、コミュニケーションの方法も普通になったのとこと。

ただし「オモチャか他のマウスか」という選択肢ではオモチャという選択肢を選ぶままだったそうです。

腸内の状態と人の気分について厳密な関係は明らかになっていませんが、代謝物質が関わっているという説もあります。

バクテリアは私たちが摂取した食べ物をエサにしているのですが、食べたものすべてを栄養分とするのではなく、廃棄物を生み出します。

この廃棄物が血液と一緒に運ばれ脳にまで届き化学作用を起こすので、腸の状態が人間の気分の土台となる脳にまで影響を与えるというわけです。

また一方でバクテリアが迷走神経を介して脳とコミュニケーションを行うという説もあります。

研究者らは「どのバクテリアが気分によい作用をもたらし、どのくらいの量が適正なのかを理解するにはさらなる研究が必要である」としていますが、自閉症やうつ病の治療法として腸の状態を整えることが役立つ可能性があるとして、今後も研究が進められていく予定です。