鬱
米国ではうつ病患者が人口の約15%を占めており、うつ病は今後10年以内に世界で2番目に多い疾患になるといわれています。

うつ病のリスクはさまざまな遺伝子の変異や幼少期の心的外傷、内分泌や免疫の異常など数多くの要因によって増大します。

うつ病はストレスがきっかけとなって起きることが多いのですが、最近の研究によって、その仕組みについて1つの可能性が明らかになりました。

喜びを期待したり、追い求めたり、感じたりする能力は、「側坐核」という脳の領域の中にある神経伝達物質の1つ「ドーパミン」と関わりがあります。

ワシントン大学のマシュー・ワナット、ポール・フィリップス両氏らはストレスがネズミのドーパミンに与える影響を調査、英学術誌「ネイチャー」と「ネイチャー・ニューロサイエンス」に発表しました。

まず、ネズミの檻にボールなど見慣れない物体を入れます。

ボールを見つけたネズミが探り始めると、即座核の中でCRFという分子が放出され、その結果、ドーパミンの放出が増加します。

見慣れない物体が猫であれば、ネズミの脳は全く違った反応を示すのでしょうが、刺激の量が適切であれば、ネズミは快感を覚えます。

この反応を仲介しているのがCRFです。

薬剤を使ってCRFの働きを止めると、ドーパミンは増加せず、ネズミは物体を調べようとはしなくなります。

別の実験で、ネズミが檻の隅に行くたびに側坐核にCRFを投与すると、ネズミは繰り返し同じ場所に戻ってきます。

つまり、CRFには「強化する」性質があるということです。

しかし、ネズミを数日間にわたって大きなストレスにさらし続けると、全く違う結果が生じます。

CRFがドーパミンの放出を促すことはなく、ネズミは見慣れない物体を避けます。

また、側坐核にCRFを投与しますと、ネズミはCRFが投与されたときいた場所を避けるようになります。

ワナット氏らはこの行動を「糖質コルチコイド」というストレスホルモンの影響によるものだとしています。

通常は探究や達成感を引き起こす刺激が全く逆に作用していることになります。

驚くべきことに、数日間、ストレスにさらされただけでネズミは少なくとも3カ月間、喜びを感じられない状態である無快楽症(アンヘドニア)に陥りました。

糖質コルチコイドはどのようにしてこうした変化を引き起こしているのでしょうか。

ネズミが回復することはあるのでしょうか。

優れた研究がいつもそうであるように、さらなる問いが生じました。

糖質コルチコイドの作用に耐性を示した個体はいるのでしょうか。

人間でも同じことが起きるのでしょうか。

解明が待たれます。

一方で、この研究はある重要な点を示唆しています。

人生ではひどいことが起きるものです。

誰でも時として落ち込みますが、ほとんどの人はそれを乗り越えます。

それでは、疾患としてのうつ病に陥り行動できなくなっている人々をどう判断したらいいのでしょう。

残念ながら、多く人はやる気不足だと考えがちです。

科学者の手によって、うつ病の仕組みについて生物学的な解明が進めば、医学にとってだけでなく社会的な意味でも有益でしょう。

今回の研究では、うつ病が現実の生物学的な疾患であることが明確にされました。

うつ病は糖尿病と同じく正真正銘の病気です。