安全資産と言えない米ドルが安定している理由

米ドル
今年1月末、ナイジェリアの中央銀行のキングズリー・モガル副総裁が総額430億ドルのナイジェリアの外貨準備のほぼ1割をドルから中国人民元に交換する方針を発表して米国の政治家を驚かせました。




モガル副総裁は「国際経済学と国際貿易の将来はもっぱら中国とのビジネスおよび中国によるビジネスにシフトしていく」と指摘し、「最終的に人民元は世界的な兌換通貨になるだろう」と説明しました。

各国中央銀行の外貨準備のうち人民元建てで保有されているのは全体のわずか0.01%程度で、60%がドル建て、25%がユーロ建て。

しかし、ピクテ・アセット・マネジメントのチーフエコノミスト、パトリック・ツヴァイフェル氏は、人民元準備は2025年までに外貨準備全体の30%に達し、ドルの優位性に挑む可能性があると考えています。

こうした予想は、中国の高まる経済力と漸進的な通貨自由化と大きく関係しているのですが、米国に対する警戒と苛立ちも反映しています。

米国の経常赤字、増加する政府債務、金融危機の後遺症、そして政治の膠着状態を受け、エコノミストや投資家は迫り来るドル安に警鐘を鳴らすようになりました。

このためナイジェリアなどの国々が、ドルに対するエクスポージャー(投融資残高)を減らし、米国の政策の振れに縛られる状態から逃れるのに熱心になっているわけです。

しかし、元国際通貨基金(IMF)エコノミストのエスワー・プラサド氏が新著『The Dollar Trap(ドルの罠)』で指摘しているように、ここには矛盾があります。

常識で考えれば、こうした展開はドル危機の火付け役になったはずですが、正反対のことが起きたのです。

貿易額で加重平均した通貨バスケットに対するドルの価値は、2008年の水準とほとんど変わりません。

また、国際的な表示通貨としてのドルの役割は近年小さくなった(例えば、ユーロ建てでの原油取引が増えているため)ものの、価値の貯蔵手段としては、ドルは今も世界随一の通貨です。

確かに、ドル建てで保有される中央銀行の外貨準備の割合は2001年当時より低いのですが、2008年以降は低下していません。

むしろ、危機によって準備通貨としての地位が低下したのはユーロです。

外国人は引き続き米国資産に殺到していて、2008年以降に発行された米国債券全体の6割を購入しました。

他国に暗雲が垂れ込めると投資家は逃げ出しますが、米国が岩にぶつかると投資家は買いに回るという投資家の価値観が逆転する状況はしばらく続きそうです。

1つには、米国の景気が回復していて、米連邦準備理事会(FRB)が資産購入を縮小していることがあります。

どちらもドル相場を下支えする出来事です。

しかし、経済学の枠を超えた別の理由もあります。

恐怖心です。

過去10年間というもの、新興国は市場の混乱に対する防衛策として高格付けの国債を積み上げてきました。

規制当局は欧米銀行に圧力をかけて同じことをさせました。

しかし、今や正真正銘の安全資産がほとんど存在しません。

米国債でさえ、もはやリスク資産で、資産運用担当者は「流動性への逃避」に飛びつきました。

流動性において米国はトップに君臨しています。

米国の資本市場は奥行きがあり、ドルのプールは底なしに見えます。

供給量が制限されているためではなく、供給量が豊富なために、ドルは超魅力的になったのです。

やがてはドルの過剰供給をもたらす緩和政策が米国通貨の魅力を損なうのかもしれませんが、再び政治的な動機が経済学に勝つ可能性もあります。

米国政府の債権者の多くは米国の有権者であり、彼らは価値の低減と戦うでしょう。

外国人投資家はこれを知ったうえで、米国資産を買い続けると予想されます。

ナイジェリアなどの国々では外貨準備の多様化の話題が大流行していて、各国中央銀行は人民元だけでなく、カナダドルなどの他国通貨も買っています。

しかし、選択肢の幅広さが、どれか1つの通貨がドルに対抗するのを難しくします。

ドルへの殺到とエスワー・プラサド氏が新著『The Dollar Trap(ドルの罠)』で指摘している矛盾をいっそう激しくする可能性の高い新興国市場の混乱の最中では、なおのことです。

米国株に投資しないのならば、他の何に投資するのでしょうか。

新興国市場は不安定になっています。

欧州は今も苦しんでいます。

現金や優良債券では利回りはゼロに等しい。

一方、ジャンク債は過熱気味とみている専門家が多い。

ヘッジファンドも四苦八苦しています。

こうした中でFRBは、金利を低水準に維持して人々にリスクをとるよう迫り、人々に投資を続けさせる方針です。

言い換えれば、株式を購入しない人は、FRBに歯向かっていることになります。

だからこそ、米経済が難局にあるとの不安や、政府・議会の機能不全、FRBの量的金融緩和の縮小、企業収益への懸念があるにもかかわらず、多くの投資家が米国株から離れてしまうことを躊躇し続けているのです。

投資家は居心地が多少悪くなっています。


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