アメリカ人のノーマン・カズンズ・・・戦後、被爆でケロイドになった広島の女性25人をアメリカに招き、整形外科手術を受けさせたジャーナリストということで ご存じの方も多いと思います。

カズンズは1964年、50歳のときに、500人に1人しか治らないと言われていた難病の膠原病にかかり、主治医からは、全快の可能性が極めて低いことを告げられました。

しかし、ジャーナリストとしての持ち前の探求心から「自分の病気のことを医者だけに任せて良いのか?自分で何とかしなければならない」と考えます。

その後、ハンス・セリエの古典的な名著『生命のストレス』を読んだことを思い出し、そこで『積極的な情緒は積極的な化学反応を引き起こさないのだろうか。愛や希望や、信仰や、笑いや、信頼や、生への意欲が治療的価値を持つこともあり得るのだろうか』と考え、積極的情緒の完全発揮をめざす計画を実行。

そのために、投薬法の見直し。少しでも毒性のある薬が使われるとすれば、計画の成功は疑わしいと、治療で使われていた薬を自ら調べ、薬の代わりに免疫作用と自己治癒力を働かせるためにビタミンCの大量投与を試みました。

そして積極的情緒の発揮方法として、闘病生活の中で“笑い”を取り入れることにしました。

脊椎と関節の一本残らず火がついたように痛みながら仰向けに臥せているカズンズは面白いどころの騒ぎではありません。しかし“笑い”の効果はてきめんで、滑稽な映画を見て10分間 腹をかかえて笑うと、少なくとも2時間は痛みを
感ぜずに眠れるという効き目がありました。

そして、その効果を血沈(血液を試験管に入れ、抗凝固剤という血液が固まらないようにするための試薬と混合すると、やがて赤い赤血球が下へ沈み、上澄みのような透明の血漿が上に残ります。)を量(はか)ることで、実際に身体の化学作用に健全な影響を及ぼすことを確認しました。

そのときの体験記が最も権威ある医学誌に1976年に発表されると、アメリカ医学界に凄まじい反響を生みました。そして反響が止まないのを見て、更に闘病生活の間に痛感した現代医学界の血管についての省察(自分のことをかえりみて考えめぐらすこと)と提言を書き加え、1979年に『Anatomy of an Illness: As Perceived by the Patient 患者から見た ある病理の解剖』と題して出版させました。(邦題『笑いと治癒力』として岩波現代文庫)

この本の中で、カズンズはビタミンCや笑いさえあれば膠原病が治ると言っているのではありません。彼が勧めているのは「生への意欲」を持ち続けることです。

心臓発作に襲われて、75歳で死去する2ヶ月前に「重要なのは、我々が生きている間に何を行うかである。人生の大悲劇は死ではなく、我々が生きている間に、我々の内面のものが死に絶えることだ」と語っています。

生きるかぎり、あらゆる力を振り絞って、精一杯、自分の人生を生きる意欲を失わずに進んでいきたいと切に願います。