日本国債
日本銀行の早川英男前理事はブルームバーグ・ニュースのインタビューで、経済の実力である潜在成長率が低下する中で日銀が掲げる2%の物価目標実現が近づいており、国債価格暴落の可能性が高まっていると警告します。

富士通総研エグゼクティブ・フェローを現在務める早川氏は5月2日、「物価だけに限って言えば、日銀の勝ちだ」と述べ、既に完全雇用であり、人手不足による賃金上昇が今後起きて、物価は来年度の終わりころには2%には近づいてくると予想しました。

同時に日銀は潜在成長率の低下という不都合な真実から目を背けているとも語りました。

潜在成長率低下は財政赤字拡大につながり、ひいては長期金利上昇(国債価格下落)圧力になります。

こうした中で物価目標が達成されると日銀が国債を買わなくなり、国債急落につながりかねないとの見方です。

こうした事態を避けるには財政再建と成長戦略が不可欠ですが残された時間は少ないと強調しました。

足元0.6%前後で低位安定している長期金利 について早川氏は「国債市場は物価がいつまで経っても2%に届かない、従って日銀がいつまでも国債を買ってくれるという前提で取引をしている」と語りました。

その上で今年度末は無理にしても物価は2%にだんだん近づいてくるとして「そうなると、日銀はいずれ国債を買ってくれなくなる。その日が近づいている。国債市場だけでなく、日銀も完全にモラルハザードに陥っていて、国債の暴落は起こらないと思っているが、それは起こる」と予測しました。

日銀は4月30日に公表した経済・物価情勢の展望(展望リポート)で、実質国内総生産(GDP)成長率見通し(委員の中央値)を2013年度、2014年度とも下方修正した一方で、生鮮食品を除くコア消費者物価指数の前年比(消費増税の影響除く)は2014年度が1.3%上昇、2015年度は1.9%上昇と、いずれも1月の見通しを据え置きました。

早川氏は「成長見通しを大幅に下げて、物価は上がるとすると、それは普通に考えれば潜在成長率が下がったと考えるべきだ」と話します。

日銀は潜在成長率を「0%台半ば」として、2016年度までの「見通し期間の終盤にかけて徐々に上昇していく」とみています。

早川氏はこれについて「明らかに強弁であり、無理がある」と指摘。

「同リポートの図表では、潜在成長率は昨年10月は0.3-0.4%だったので辛うじて0%台半ばと言えるが、今回は0.2%ない。もちろん潜在成長率の計り方にはいろいろな問題はあるが、少なくとも日銀が計っているやり方では0%近傍だ」と話しました。

潜在成長率低下の有力な証拠として挙げるのが実質GDPと失業率の関係です。

昨年10-12月の実質GDPの水準はリーマンショック前のピークの2008年1-3月よりも0.3%低いのですが、1-3月は駆け込み需要がありましたので、リーマンショック前のピークを抜くのは確実とみられています。

つまり、足元の実質GDPは6年前とほぼ同水準にあります。

失業率は3.6%とリーマン前の一番低い水準と同じです。

仮に6年間で0.5%ずつ潜在成長率が伸びていれば、潜在的なGDPは3%増えているはずです。

早川氏は「潜在的なGDPが3%増え、実質GDPの水準が同じで、なぜ失業率が6年前と同じなのか。常識的に考えればそれはおかしい。潜在成長率はほとんど伸びていないというのが正しい」と語ります。

早川氏は「もはやデフレではなくなったが、消費増税による駆け込み需要はあっても、消費がどんどん出てくるわけではない。普通に計算すれば実質金利は大幅なマイナスだが、にもかかわらず設備投資が力強く出てくる様子もない。従来は一番効くと思われていた円安ですら、大した効果はなかった」と指摘しました。

その上で「デフレを脱却しても結局、日本経済は強くならないということであり、問題なのはむしろ、潜在成長率が0%近傍とさらに弱くなっていることだ」と語ります。

潜在成長率が低下していることによる良いニュースが仮にあるとすれば、「労働需給がタイトになってくるので、恐らく賃金は周辺部分から上がってきて、いずれは物価上昇につながってくる。まさにデフレの終わりだ」と早川氏は言います。

しかし、「残念ながら生産性が上がってなければ、物価と賃金が同じくらい上がるだけであって、実質的な生活水準が上がるわけではない。そして、一番厄介なのは、財政への帰結だ」と語ります。

政府は2020年度のプライマリーバランスの黒字化を目標としていますが、今年1月時点の政府の試算では同年度時点で10兆円の赤字となっています。

しかも、それには実質2%台、名目3%台の成長が前提です。

「潜在成長率が0%近傍に落ちているとしたら、実質2%の成長は絵に描いた餅だ。可能なわけはない。仮に実質成長率を0.5%に落として試算し直せば、赤字はもっと増える」と言います。

BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「物価目標の達成が現実味を帯びてきた段階で、長期金利が急騰するリスクがある」と指摘。

「仮に2%のインフレ予想が織り込まれると、長期金利は少なくとも3%まで上昇、リスクプレミアムが織り込まれると4、5%まで上昇する可能性がある」といいます。

早川氏は「本当に長期金利が3%まで上がったら、財政は持たない。潜在成長率が大きく下がっているとすれば、3%までは行かないと思うが、2.5%でも持たないだろう。利払い費が膨らんで、ますます財政赤字が拡大する」と語ります。

安倍政権は年内に2回目の消費税率引き上げの是非を決定しますが、その際、追加的な財政刺激を行うとの見方が根強いです。

また、それに呼応するように、日銀が年内に追加緩和に踏み切るとの見方が圧倒的に多くあります。

しかし、早川氏は「それは明らかに自滅への道だ」と語ります。

早川氏は「既に完全雇用の状態なので、放っておいても人手不足と賃金上昇が起こる。そこで財政、金融をさらにふかせば、2%が早まるだけだ。2%が早まるということは、ゲームセットが早まるということだ。われわれに与えられているのは、2%を達成するまでの時間だけだ」と言います。

その上で「黒田総裁は安倍首相に財政再建と成長戦略に真剣に取り組むべきだと訴えるべきだ。日銀の物価目標だけをとらえて言えば、それは着実にうまくいっているが、一方で財政再建は行われず、成長戦略も実行されず、それだけ達成されたら、非常にまずいことが起こる」と警告しています。