モンゴルの急激なインフレと通貨下落、広がるチンギス国債デフォルト懸念

モンゴル
2012年11月、モンゴル政府は総額15億ドルの国債(通称:チンギス国債)を発行しました。

内訳は、5億ドル分が期間5年の利回り4.125%、残りの10億ドル分は期間10年の利回り5.125%です。

しかも、国債はドル建てでした。

当時、アメリカは量的緩和政策の最中であり、当然政策金利はゼロでした。

つまり、ドル建て金融商品の金利はかなり低迷していました。




このチンギス国債は当時としてはかなりの高金利商品だったため、世界中の投資家が群がり、文字通り飛ぶように売れました。

しかし、当然そこにはリスクもありました。

最大のリスクは、モンゴルが国家破産して期限までに償還できないことです。

では、この国債の償還が可能かどうか、以下の事実を総合的に考えてみましょう。

(1)モンゴルは過去22年間で5回経済が破綻し、IMF(国際通貨基金)の救済を受けている。

(2)モンゴルは中国とロシアに挟まれた内陸国である。

(3)チンギス国債の発行総額15億ドルは、発行前年のモンゴルの名目GDPである87.6億ドル(米ドル換算)の約20%に相当する。

(4)当時のイタリアの10年物国債の利回りは約4.75%程度、ザンビアの10年国債の利回りは5.625%だった。

(5)モンゴルの外貨準備は減少している。

(6)モンゴルのインフレ率は2桁台である。

(7)株式市場は10年をピークとして12年時点ですでに30%下落している。

(8)2012年の国政選挙で政権交代があり、新政権が突如資源ナショナリズムに舵を切った。その後、世界最大の銅山オユトルゴイの開発が無期限延期となっている。

チンギス国債の発行から2年が経過した今年、モンゴル株式市場はいまだに低迷しており、インフレの進行もかなり深刻です。

2008年のリーマンショック以降、モンゴルの通貨(トグログ)は対ドルで25%も下落しましたが、現在はその時よりもさらに3割切り下がった水準の中で上下動しています。

モンゴルの経済学者や評論家は、政府が通貨暴落を容認していることを非難していますが、政府は景気の低迷を恐れて大胆な引き締め政策を採用していません。

モンゴルではすでに資本取引規制が撤廃されており、投資家は認可された証券会社を通じて国内外に自由に投資することができますが、国民の株式や外貨に対する投資意欲の低さを証券会社は嘆いています。

確かに、モンゴルの株式市場は1992年からスタートし、まだ22年の歴史しかありません。

とはいえ、資源価格高騰を背景とした好調な経済成長に支えられ、モンゴルトップ20株価指数は10年初に6000ポイント程度まで上昇しました。

2011年2月にはさらに急上昇して3万2301ポイントを記録するなど、実に5倍以上の高いパフォーマンスでした。

しかし、これは明らかに実力の伴わない数字であり、2011年2月にピークをつけた直後から株式指数は急落し、2012年半ばには2万ポイント台まで下落しました。

2013年はさらに値を下げて、現在は1万6000ポイント前後と低迷しています。

モンゴルの不動産市場は株価にほぼ連動し、2010年から2012年ぐらいまでは活況でしたが、やはりここ数年は低迷しています。

国内大手不動産、モンゴリアンプロパティ関係者によれば、最大の問題は通貨の下落です。

なぜなら、多くの物件価格はドル表示のため、トグログの暴落によって自動的に値上げになってしまい、顧客が離れていくからだそうです。

さらに、冒頭述べたマクロ環境の変化により、実需という意味では相当低迷しているとのことです。

現在、モンゴル政府は住宅ローンの政策金利を年率8%固定にする政策を発表し、財政的な援助を行っています。

この金利は日本人からするとかなりの高金利ですが、モンゴルにおける通常の住宅ローンは月利で1.2~2%であることに比べますと、かなりの低利ローンということになります。

しかし、この政策は政府の財政的な負担を増大させ、チンギス国債の償還にマイナスの影響を及ぼすことが懸念されています。

2012~2014年にかけて、状況はむしろ悪化したようにしか見えません。

もちろん、背景には国際的な資源価格の低迷があることは間違いありません。

モンゴル経済はロシア経済と同じく、資源価格が高騰すると投資が増え、投資が増えることによって国内の消費が増え、景気が良くなります。

資源価格が低迷する時は、これとは反対のことが起こるわけです。

モンゴルが得意とする石炭や銅の価格はリーマンショック以降一時的に回復したものの、長期的には低迷しています。

景気が悪ければ税収は増えず、当然国債の償還には赤信号がともります。

日本の場合、いくら巨額の国債残高があるとはいえ、すべて円建てであり、保有者の9割以上は日本人です。

最悪の場合、円を印刷すれば全額償還することは可能です。

これに対してモンゴルのチンギス国債はドル建てであり、モンゴル中央銀行はドルを印刷することはできません。

つまり、国債償還のためには、国中のドルをかき集めなければならないのです。

ところが困ったことに、モンゴル政府のドルの量(外貨準備高)は昨年から激減しています。

モンゴルの外貨準備高推移

外貨準備高はチンギス国債発行の翌月をピークとして、その後は急減しました。

すでに、昨年末の段階で20億ドルを大きく割り込んでいます。

多くの生活物資を輸入に頼っているモンゴルにおいて、貿易の決済可能期間も重要です。

しかし、2013年初は35週間だった決済可能期間は、1年後には10週間まで短縮してしまいました。

これは下手をすると、運転資金のショートが起こるかもしれません。

加えて、2014年に入ってからモンゴル中央銀行は外貨準備高の公開をやめましたが、「よほど外貨準備が減少しているのではないか」との懸念が広がっても仕方ありません。

上のグラフを現在まで表示すれば、外貨準備高は2億ドル程度まで減少している可能性すらあり、チンギス国債の償還はますます遠のいているかもしれません。

以上見てきたように袋小路に陥りつつあるモンゴル経済について、英フィナンシャルタイムズ紙は、以下の3つの解決策を提案しています。

(1)オユトルゴイ銅山の開発を再開し、キャッシュを稼ぐ

(2)中国に支援を仰ぐ

(3)世界銀行、アジア開発銀行、韓国、日本など第三者に支援を仰ぐ

(1)は時間がかかりすぎて、キャッシュを得られる頃には国家破産してしまう恐れがあります。

(2)は中国への依存が高まりすぎるリスクがあります。

もちろん、モンゴル政府も国民も中国の属国になることは望んでいません。

となると、俄然(3)の可能性が高まりますが、モンゴルには対外債務を対GDP比で40%以内に収めるという法律があり、支援を受けるためには法改正が必要です。

上限を70%に上げる法案は一度国会で否決されていて、この解決策も採用するのは容易ではありません。

このままいけば、2017年から始まるチンギス国債の償還は、非常に困難になることは間違いないでしょう。

利払いに窮したり、元本が返せなかったりした場合、いわゆるアルゼンチン型の国家破産に至る可能性もあります。

しかし、アルゼンチンは国家破産したそのたった2年後に、奇跡の復活を遂げました。

この復活以降、アルゼンチン経済は強くなりました。

例えば、リーマンショックの影響も最小限に抑え、高い経済成長率をキープしたことはあまり知られていません。

2001年にアルゼンチンが国家破産した時、実質GDP成長率はマイナス4.41%でした。

翌年の2002年はさらに悲惨で実質GDP成長率はマイナス10.81%まで低迷したのですが、2003年に8.96%にV字回復すると、その後2011年まで概ね8%程度の経済成長が続きました。

最近でこそ成長率は4%まで鈍化していますが、2003年からの約8年間の経済パフォーマンスは極めて良好だったと言っていいでしょう。(ただし先月、アルゼンチンは債務減免に応じない一部少数投資家との裁判に敗訴したため、返済資金はあるのに債務の返済が禁じられるという事態、「テクニカル・デフォルト」に陥る可能性があります)。

モンゴル経済についても、これと同じことが起こるかもしれません。

モンゴルには莫大な天然資源が眠っており、そのほとんどがまだ手つかずのままです。

オーストラリアやカナダをモデルとして、少ない人口ながら資源を輸出しつつ経済発展する道も残されています。

また、2年後の2016年には国政選挙があり、再び政権交代によって政策が大きく転換する可能性もあります。

モンゴルの不動産業界は、オユトルゴイ銅山の操業で多くの外国人がウランバートルを訪れるだろうと見込んでいました。

しかし、操業延期となったことで、彼らの需要を見込んでいたコンドミニアムの買い手が付かない状態です。

中国の金持ちも不動産バブル崩壊で元気がありません。

韓国も景気は低迷しており、まさに中国と共倒れの様相です。

そんな中、唯一ウランバートルの不動産に手を出せそうなのは、アベノミクスで好調の日本の投資家だけかもしれません。

金融危機で投げ売り状態になれば、理想的な底値買いができる可能性もあり、金融危機でモンゴルトグログが暴落すれば価格そのものも安くなり、相対的にリスクも小さくなっていきます。

もちろん、極めてリスクが高い投資なので、慎重な判断が必要なことはいうまでもありません。


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