牛がセルロースで生きれるのは共生微生物が脂肪酸やアミノ酸を産生するから

肉牛
牛などの反芻(はんすう)動物は、植物食に最高度に適応した哺乳類であり、葉や茎のみを食べて生命を維持できます。

植物細胞の成分を見ますと、70%が水分であり、その他の成分が30%です。

一般に、植物体乾燥重量の3分の1~2分の1をセルロース(=多数のブドウ糖分子が結合してできた高分子)が占めていますので、固形成分の半分はセルロースです。

つまり、牛の食事の成分の多くはセルロースです。




ところが、牛はセルロースを消化も吸収も出来ないのです(それどころか、自前の消化酵素でセルロースを分解できる動物は昆虫を含め一種類もいません)。

消化も吸収も出来ないということは、「摂取カロリー・ゼロ」です。

それなのに、牛は牧草のみを食べて日々成長し、500kgを超す巨体となり、毎日大量の牛乳を分泌します。

これはどう考えても、エネルギー保存の法則に反するように見えます。

この謎を解く鍵も、共生微生物(細菌と原生動物)です。

ウシ消化管内の共生微生物が、セルロースを分解して栄養を作り出し、宿主(やどぬし)の牛は、その一部を受け取って成長するのです。

つまり、牛が食べる牧草は、牛自身の為ではなく、共生微生物の為のものなのです。

牛は4つの胃を持っています。

焼肉屋のメニューで言えば、ミノ(第1の胃)、ハチノス(第2の胃)、センマイ(第3の胃)、ギアラ(第4の胃)です(ちなみにギアラは関東での呼び方。関西では赤センマイ)。

セルロースの分解が行われるのは最初の3つの胃で、それぞれに多種類の膨大な微生物が住み着いています。

そして、最初の3つの胃では胃酸は分泌されておらず、胃酸が分泌されるのは4番目のギアラ(赤センマイ)のみです。

牛が食べた牧草は、口から第1の胃であるミノに入ります。

ミノでは、セルロース分解微生物の作用で一部が分解され、流動状態になったものが第2のハチノスに送られ、固形成分は再度口腔内に戻して咀嚼(そしゃく)します。

これが反芻(はんすう)です。

そしてハチノス(第2)、センマイ(第3)に送られて、さらにセルロースは微生物に分解され、その結果、センマイでは ほぼブドウ糖となります。

共生微生物は、このブドウ糖を嫌気(けんき)発酵し、代謝産物として各種脂肪酸やアミノ酸を体外に分泌します。

そして、これらと共生微生物の混合物が、第4の胃であるギアラ(赤センマイ)に送られます。

第4の胃では、初めて胃酸が分泌され、共生微生物が産生したアミノ酸や脂肪酸と一緒に吸収されます。

牛自身にとっては栄養価ゼロの牧草が、共生微生物によって栄養の固まりに変身したのです。

それを栄養分とするから、牛は500kgを超える巨体となり、大量の牛乳を分泌できるのです。

さらに牛は、他の動物が老廃物として捨てる尿素まで、共生細菌を利用して再利用しています。

牛は唾液(だえき)腺や3つの胃からは尿素を分泌し、胃の共生細菌は尿素を窒素源としてタンパク質を合成し、牛はそのタンパク質まで吸収するのです。

無駄を徹底的に省いた見事なシステムです。

このあたりは、自前でセルロース消化酵素を作るほうが安上がりか、セルロース分解菌を利用するほうが安上がりか、という計算問題なのでしょう。

牛は後者の道を選んだのですが、これが実に安上がりのシステムだったのです。

何しろ牛が用意しなければいけないのは、せいぜい「すり潰すメカニズム(臼歯と顎関節の働き)」だけだからです。

あとは3つの胃袋の微生物たちが、勝手にセルロースを分解してくれるのですから、自分自身は4番目の胃袋に胃酸を分泌するだけで良い。

つまり、自前で消化酵素を作る必要がほとんどないため、酵素を作るためのエネルギーはわずかで済みます。

この生き方のコストパフォーマンスが抜群であることは、草食動物の中でウシ目が最大勢力を誇っているという事実が証明しています。

ちなみに、反芻動物はどうしても、体が大きいほうが有利となります。

体内に発酵槽(はっこうそう)を持つ以上、得られるエネルギーは発酵槽のサイズ(=第1~第3の胃)で決まり、体長が2倍になれば胃袋の容積は2の3乗で8倍になるからです。

一方、体内から外気に逃げていく熱量は体表面積に比例し、面積は体長の2乗に比例しますので、4倍にしかなりません。

つまり、体が大きいほど効率がいいわけです。

このような「複数の胃袋システム」を採用した動物には、ヤギや羊、カバなどがいますが、ヤギより小さなものは ほとんどいないようです。

おそらく、これより小型になると、発酵槽で得られるエネルギーより、体表面から失われるエネルギーのほうが大きくなるためかもしれません。


カテゴリー: 健康管理 パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。