「何が問題なのか」を明快に定義できれば、あなたのアイデアを評価してもらう準備は整ったことになります。

認知心理学ではこれを「フレーミング」といいます。

問題をどうフレーミングするかが、相手の認識、相手が参考にする基準、この件に関係ありそうだと相手が思う証拠、相手が感じる感情、そして相手の最終的決断を大きく左右します。

人はビジュアル化しやすいアイデアには敏感に反応します。

ビジュアルは記憶から引っ張り出しやすいからです。

心理学ではこれを、記憶の「利用可能性」現象と呼びます。

この売り込み方法が成功するのは、人は統計的確率はさておき、ビジュアル化しやすいものは実際に起こる可能性も高いと考える傾向があります。

飛行機事故があったり、ハリケーンが上陸したりすると、航空機事故保険や洪水保険の成約率が上がります。

最近目にしたばかりの鮮明なイメージが頭にありますので、飛行機は落ちることがあるものですし、台風は深刻な被害をもたらすことがあるものだと考えるからです。

さらに、アイデアが「利用可能」であればあるほど、人はそれが真実だと思いやすいのです。

鮮明なイメージを使って大事なポイントを伝えようとするときは、聞き手のモードに波長が合っているかどうかを確認することが大事です。

場違いなプレゼンは聞き手の記憶にいつまでも残るからです。

相手に、あなたのアイデアに関連した「象徴的行動」をさせるのも、アイデアを印象づける効果があります。

「フット・イン・ザ・ドア」テクニックと呼ばれる心理現象の研究によれば、なんらかの価値観や信念に沿った具体的、物理的行動・・・たとえば公職候補者の看板を前庭に立てるとかをした人は、実際にその信念を支持するようになる可能性が高いといいます。

あなた自身が自分の主張を信じていることを示せば、相手も信じてくれる可能性が高くなります。

自分に確信があってこそ、人を説得することができます。

特にその確信に、真摯な感情という裏付けがあれば尚更です。

感情はプレゼンを生き生きとさせ、「このアイデアは私にとって大切なものです」というメッセージを伝えます。

調査によれば、しかるべき場面で あなたに信用があり、且つやりすぎなければ、感情を発露することでもうひとつ、「このアイデアはあなたにとっても大切なはずです」というメッセージも送れます。

アイデア売り込みに役立つ主な証拠形式のひとつが「具体例」です。

具体例から始めて一般論へ至る方がその逆の順序よりもずっと、聞き手があなたの話についていきやすいようです。

そして具体例をもっとも鮮明な、効果的な形で提示する方法が、「ストーリー」を語ることです。

ストーリーには数々の利点があります。

第1に、聞き手をすぐさま話に引き込み、具体的なイメージを抱かせることができます。

第2に、ストーリーはいくつもの可動部品が一体となった機械のようなものです。

そのため、新カリキュラムを教えるというような複雑なことでも、シンプルなストーリーひとつで表現することができます。

ただの解説では、なかなかこう上手くまとめあげることはできません。

単なる具体例とストーリーとの最大の違いは、研究者の言う「展開」にあります。

良くできたストーリーを聞かされると聞き手は、「これからどういう思わぬ展開があるんだろう」と思い始めます。

ストーリーを語り進めるにつれてあなたはふと、室内が静まり返っているのに気づきます。

ついさっきまでそわそわしていた聴衆が、いまやあなたの一言一言を、寝る前にお話をしてもらう子供のように夢中になって聞き入っています。

あなたのアイデア売り込みを説得力のあるストーリーに仕立てることができれば、ターゲットである「直感」という名の決定権者が耳を傾けてくれるのは間違いありません。

アイデアを売り込むときはアイデアそのものだけでなく、自分がそこに至るまでのプロセスも語ると良いです。

そうすれば あなたの綿密さや客観性を示すことになり、あなたの信用が高まります。

これは「ハント(狩り)」という特別のストーリーを語る機会でもあります。

アイデアハントのストーリーはまず、問題を手短に過不足なく提示することから始まります。

次いで、最善の答えを求めて自分がどういう探求をしたかを語ります。

もしプレゼン用ソフトウェアを使うなら、正解は教えないこと。

好奇心をそそるような単語やフレーズを書いたスライド、たとえば「問題」「ここまでの道のり」「選択肢を探し求める旅」などを何枚か見せ、その後、ストーリーを語ります。

なぜ問題解決が困難だったのか、なぜこれまで解決されなかったのか。その上で、あなたの思考プロセスが展開した経過をなぞって答えを明かします。

どこで答えを探したか、他にどういう案を見つけ、却下したか、なぜ却下したのか、など。

探求というテーマに絞って話をして時間をかけすぎないことが大事です。

アイデアハントのストーリーの特別バージョンが「ミステリー」です。

ミステリーでは、紛らわしい手がかりをいくつか出すことで聞き手に、「犯人は誰(あるいは何)だろう?」と考えさせます。

クリエイティブなアイデアの場合、ミステリーはとりわけ効果が高いです。

実在の特定の人物が現実の問題に遭遇し、様々な感情や思いを味わう様(さま)を描くと、聞き手のイマジネーションには たちまち火が点きます。

もっと伝統的なアイデアを売り込む場合、一番説得力があるのは、聞き手が自分自身の経験に照らして共感できるようなストーリーです。

聞き手は あなたのストーリーをビジュアルとして思い浮かべ、膨らませ、自分自身の経験と結びつけます。

そうなれば あなたのアイデアは相手にとって より鮮明になり、真実味を帯び、後で思い出しやすくなります。

プレゼンに個人的エピソードを盛り込む方法はいろいろあります。

あなたが解決しようとしている問題にからんで、あなたと顧客や社員が共に経験した具体的事案の話をします。

それらの顧客や社員の名前を挙げ、エピソードがどこで、何時頃起きたかを特定します。

解決しようとしている問題のせいで あなた自身が悩まされた実例を語ります。

一人称の説得アプローチをすれば、ありきたりの意思決定プロセスも一転、印象的な瞬間に変貌させることができます。

個人的な見解やエピソードには、話し手の揺るがぬ確信を伝える力がありますが、リスクもあります。

第1に、その問題を語る資格が あなたにあることが必要です。

第2に、実話に頼る場合、あなたの正直さが問われます。

ストーリーを信じてもらえなければ、あなたは信用を失います。

個人的エピソードにはプラス面もあります。

「真実を語っているか否か」のテストに合格しさえすれば、説得ゲームでホームランをかっ飛ばしたも同然です。

相手はあなたの人間性を尊敬してくれるでしょう。

あらゆる説得研究者の祖、アリストテレスがこう言っています。

「善人はそうでない者よりも全面的に、且つ たやすく信じてもらえる。このことはどんな問題についても大抵当てはまる。そして正確な事実の確認が不可能で、意見が分かれているときは必ず当てはまる・・・(話し手の)人間性こそは、何にもまして効果的な説得手段と言っても良いほどだ」。

アイデア売り込みにあたっては、すぐれた個人的エピソードの威力を絶対に過小評価しないことです。