「1オンスの行動」は「何ポンドもの約束」にも匹敵します。

あなたが相手と信頼レベルの人間関係を築いていて、相手の約束に絶対の信頼をおける場合でない限り、売り込み完了にあたっては、「約束」ではなく、「行動」という形のコミットメントを求めるべきです。

心理学者によれば、相手のコミットメントをとりつけるためには以下の条件が必要だと言います。

  1. 本人の自由意思により、
  2. 努力を要する
  3. なんらかの具体的な行動をとらせ、
  4. その行動を第三者に目撃させるか知らせる

相手がとる行動は、あなたのアイデアを支持するメールをメーリングリストの宛先に送るような簡単なことでも良いですし、あなたのアイデアに何百万ドルもの資金と何百人ものスタッフを投入するような大掛かりなものでも良いです。

どちらにしても、ここまで来れば相手は味方だと思って良いでしょう。

心理学者ロバート・チャルディーニの言葉を借りれば、上記の4条件を充たす具体的行動を通じて、コミットメントは「独り歩き」を始めます。

ささやかな行動がキッカケで、もっと大規模な行動へのコミットメントが生まれるのです。

このことはセールスマンの間では「フット・イン・ザ・ドア」現象として知られています。

営業先の玄関に一歩でも踏み込めれば、最終的には家やオフィスの中まで入り込んで売り込みに成功する可能性が高いことを言います。

心理学の研究では繰り返し、このことが実証されています。

ある調査では、多数の持ち家所有者を説得して、みっともないデザインの巨大な公共掲示板を家の庭に立てさせてもらうことに成功しました。

同意をとりつけた秘訣は、2週間前の訪問にありました。

別の研究者がボランティアを装ってそれらの家を訪れ、「安全運転」と書いた3平方インチ(約19平方センチメートル)の小看板を立てさせてくれないかと頼みました。

相手は自分の自由意思で、第三者の目につく形で、かつ大した努力を払わずにこの要望を受け入れました。

いったん受け入れてしまうと、「慎重運転」と書かれたもっと大きくてみっともない看板も立てさせてもいいかという気になりました。

事実、小看板を立てるのを承諾したグループの76%が、大看板を立てるのも承諾しました。

これに対して一度目の訪問を受けなかった対照群では、大看板の承諾率はわずか17%でした。

聞く限りでは至って簡単そうです。

決定権者を動かして、あなたの望む方向へ小さな一歩を踏み出す承諾をとりつけさえすべば完了です。

しかしもちろん、そう簡単にはいきません。

まだ問題がたくさん残っています。

以下でひとつひとつの問題を見ていきましょう。

第1に、相手だってバカではありません。

たとえ些細な行動でも、具体的行動に出ればコミットメントを与えたことになると本能的に察知し、そういう一歩を踏み出すことを拒否します。

最近、大手の医療機関に変革案についてアドバイスしたことがあります。

幹部のひとりがプログラムに強硬に反対していました。

私たちは彼を巻き込もうとして、変革案について話し合う会議の視界をしてほしい、ついては会議の冒頭で、全員にテーマを周知するため変革案を読み上げてくれないかと頼みました。

その幹部は司会役は引き受けてくれたのですが、変革案を読み上げるのは拒否し、「こんな小さな一歩を踏み出すのでさえ気が進まない」と言いました。

彼の渋々ながらの支持をとりつけるには結局、アイデアのもつ基本的な利点と、同僚グループによる「口説き」に頼るしかありませんでした。

第2に、「強引すぎる」と相手に思われやしないかという概念から腰が引けてしまうことがあります。

決定権者が有力者で しかも説得が難しい相手の場合は特に、この点がネックになることがあります。

ハリウッドの有名なプロデューサー、ピーター・グーバーは行く先々で約束をばらまくことで知られていました。

ナンシー・グリフィンほか著「ヒット&ラン—ソニーにNOと言わせなかった男達」によれば、「ハリウッド人種の半数」はグーバーと共同プロジェクトの約束をしているつもりでいましたが、グーバーに本格的コミットメントを要求して無理にでも腰をあげさせようとする者はほとんどいなかったといいます。

グーバーはあっちのオフィスからこっちのオフィスへと走り回っては、尽きることのない熱意と「こういうことをやろうじゃないか、それともこういうのはどうだ」というトークで相手を煙に巻いていました。

しかしグーバーと会見を終えた人は、きまって室内を見回してこう尋ねました。

「今の会議は要するに何だったんだ?」。

こういう手合いの相手にアイデア売り込みに成功しようと思ったら、目には目を、自己主張には自己主張を、です。

もしそういうタイプのボスに具体的行動を求めて拒否されたら、つまり答えは「ノー」だということです。

あなたが性格上、こういう相手にコミットメントを要求するなんてできないという場合は、要求できる性格の味方を見つけて援護射撃をしてもらいましょう。

第3の問題は、「相手に拒否されるのではないか」という不安です。

従来型のセールスでも、この不安が成約の妨げになることがあります。

アイデア売り込みも例外ではありません。

ではどうすればいいか?不安を乗り越えることです。

自分のアイデアを推進する具体的な一歩を踏み出してくれと求めて「ノー」と言われたら、それを逆手にとって、ノーという答えの背後にどういう反対意見があるのかを探りましょう。

それに基づいて、自分のアイデアをリフレーミングできるかもしれません。