厚生年金基金の解散ラッシュで企業が迫られる難しい選択

厚生年金基金
厚生年金基金解散の動きが加速しています。

2013年3月末に560あった基金のうち、昨年10月までに100近い基金が解散方針を決定。

昨年12月にはアサツーディ・ケイ(9747)などが加入する日本広告業厚生年金基金、今年2月には堀場製作所などが加入する京都機械金属厚生年金基金も解散を決めています。




こうした動きを後押ししているのが、4月施行の改正厚生年金保険法です。

財政難の基金に解散を促す法律で、昨年6月に成立しました。

AIJ投資顧問による年金消失事件で基金の財政難問題が表面化したことが、法改正のきっかけとなりました。

財政状況が悪化している基金は解散するか、他の制度に移行しなければなりません。

9割近くが解散を選ぶとの見方もあります。

厚生年金基金にとってはいわば「大解散時代」の幕開けです。

年金制度の体系

そもそも厚生年金基金とは企業年金制度の一部分で、国民年金、厚生年金保険に上乗せする「3階建て部分」にあたるものです。

「代行」と呼ばれる形で公的年金の一部を国に代わって運用。

企業独自の年金も組み合わせて上乗せ給付しています。

1966年にスタートし、1990年代後半には全国で1800を超える基金に約1200万人が加入していました。

基金を巡る情勢が一変したのは確定給付企業年金法が施行となった2002年です。

将来的な基金運営の厳しさを見越し、大企業を中心に代行部分を国に返上したうえで基金を廃止する動きが広がりました。

現在残っている基金は中堅・中小企業が業種別に集まって設立した「総合型」がほとんどで大企業が単独で運営する基金に比べて合意形成が難しかったことからまだ残っている側面が強いようです。

年金基金の数は減少

残された基金の財政は厳しい状況です。

2012年3月末時点では約4割で国に代わって運用している資産に欠損が生じ、いわゆる「代行割れ」と呼ばれる状態にありました。

アベノミクス相場が始まり株価上昇の恩恵を受けた2013年3月末でも約2割が代行割れから抜け出せていません。

多くの基金は年金を独自に上乗せしている部分について5.5%の予定利率を掲げるが、最近5年間平均の基金全体の運用利回りは0.83%にとどまります。

問題はこれだけではありません。

退職者に払う給付金と現役社員が負担する掛け金のバランスも崩れています。

掛け金総額を給付費総額が上回る状況が2009年度以降続いているのです。

解散するか、それとも他の制度に移行するか、退職者が増える中で、各基金は難しい選択を迫られています。

厚生年金基金

厚生年金基金が「大解散時代」を迎えたことで、市場では基金が保有する18兆円もの金融資産の行方に関心が集まっています。

基金が解散したり、国に代わって運用している「代行部分」を返上したりすると、相場には下落要因として働くのでしょうか。

そのヒントは、大手を中心に多くの企業が代行返上に走った2002年にあります。

当時は基金が持つ株式の売り圧力がでるとの懸念が市場に広がり、日本株の下落要因になりました。

これまでは解散などで基金が国の代行部分の資産を返上する際には、いったん現金化してから返上する場合が多くありました。

返上された代行部分は、厚生年金保険に移管されたうえで、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が運用していくことになります。

厚生年金基金

ここでポイントとなるのが、GPIFと厚生年金基金の資産構成割合の違いです。

GPIFの運用資産は国内債券が約6割、国内株式が15%程度を占めています。

これに対して厚生年金基金は、全体でみると国内債券が25%程度にとどまる一方、国内株式は約20%を占めます。

運用資産の構成で厚生年金基金の方が株式の比率が高いのは、企業の掛け金負担が増えるのをなるだけ抑えようとする力学が働くためです。

多くの中小企業が加入している厚生年金基金は少しでも高い運用利回りを確保しようと、国内債券に比べてリスクは高いが値上がりも期待できる国内株式に比重を置いて投資してきました。

では、厚生年金基金が代行部分を国に返上し、GPIFなど他の運用主体にこの資産が移ると、株や債券などはどう増減するのでしょうか。

ゴールドマン・サックス証券に昨年3月末の厚生年金基金の保有資産をもとに試算してもらったところ、国内株式が約1.5兆円減る一方で、国内債券は約4.6兆円増えるとの結果が出ました。

GPIFは運用改革で国内債券の比率を下げる方向にあり、大きく買う状況にはありませんが、代行返上が相次げば国内債券にとっては一定の買い要因となりそうです。

厚生年金基金

国内株式については、さらに大きな売り圧力がでるとの試算もあります。

大和総研の菅野氏が予想する株式売却のインパクトは約6.4兆円です。

「昨年来の株価の上昇を考えれば、基金を解散して売却益を稼ごうとするインセンティブが働きやすい」(菅野氏)ためです。
 
とは言え、厚生年金基金に加入する企業の間での合意形成や解散に向けた手続きなどには一定の時間がかかります。

しかも、この期間は基金によって様々です。

売りが出る時期は一斉ではなく、1~2年にわたりじわじわ出るとの見方が多いようです。

信託銀行は厚生年金基金に対し、厚生年金本体など国の運用方針に近い運用を目指す商品の提供を積極化しています。

基金自らがポートフォリオの見直しを進めているのも見逃せません。

日本の株式市場を取り巻く環境が2002年ごろとは違うとの見方もあります。

大企業の基金による代行返上の換金売りが花盛りだった2002年には、「代行返上問題が市場の疑心暗鬼を招き、売りを誘った」と大和総研の菅野氏は指摘します。

かつてに比べると、この疑心暗鬼は薄れているとの声は少なくありません。

年金の負担軽減が課題となっているのは厚生年金基金に加入する中堅・中小企業だけではありません。

定年退職者が増え、給付に必要な積立金の確保が難しくなっている事情は大企業も同じです。

年金制度の改定や運用の外部委託などの取り組みが広がりつつあります。

従業員に将来支払う年金や退職金に対する手元資産の不足額は、2013年3月期末で8兆5000億円(金融や新興企業を除く3月決算上場企業)に上ります。

2014年3月期からは積み立て不足を負債として貸借対照表に計上する会計ルールが始まります。

負債が増えて自己資本比率が低下すれば、株価や格付けにも影響しかねません。

厚生年金基金

格付投資情報センター(R&I)によりますと、積み立て不足が残るのは2012年度で東証1部上場企業(米国会計基準を除く)の8割弱。

富士通やNECなど9社の積み立て不足額は500億円を超えていて、この分を貸借対照表に反映させると41社で3ポイント以上、自己資本比率が低下します。

財務の悪化に歯止めをかけるべく企業も動いています。

2013年3月末で1252億円の積み立て不足を抱えていたシャープは2013年11月に1365億円の増資を実施して不足分の計上に備えました。

現在、企業年金制度を支える約1600万人のほぼ半数が、決まった給付金を受け取ることができる「確定給付企業年金」に加入しています。

この制度はかつて主流だった「適格退職年金」に代わる受け皿の1つとして2002年に始まりました。

適格退職年金は受給者保護の仕組みが不十分といった問題点を抱えていたため、10年間の移行期間が終了した2011年度末をもって廃止されています。

確定給付年金は適格退職年金の縮小に伴い加入者数を伸ばしましたが、2011年度をピークに減少に転じています。

企業からみますと運用状況が不透明な中では財務へ与えるリスクが少なくありません。

今後増加が見込まれるのは加入者の運用成績によって受給額が変動する「確定拠出型」です。

これも適格退職年金縮小の受け皿としてスタートしました。

巨額の積み立て不足を抱える富士通は2015年3月期にも確定拠出年金を導入する方針です。

2014年3月期にはパナソニックが企業年金の一部に確定拠出年金を導入しました。

運用リスクを加入する個人が負うことになるため、企業は年金積立不足の圧縮を期待できます。

他の手法で負担軽減を目指す動きもあります。

野村総合研究所は財務諸表に計上していた退職一時金の運用を外部に委託することで、貸借対照表から切り離します。

伊藤忠商事は年金資産を積み増すため、自社で保有する株式を退職給付信託に設定し、年金資産に組み込んでいます。


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