年金財政検証 特に30代以下世代の基礎年金の所得代替率が下がったことを問題視

国民年金
厚生労働省が6月3日に開いた社会保障審議会の年金部会で委員から基礎年金の水準低下を懸念する声が相次ぎました。

 「基礎年金の『劣化』をどうするかが問題」

 「基礎年金の所得代替率が低下している。この層への対応が急がれる」

 「基礎年金の割合が大きく落ちている。今後、厚生年金と基礎年金の役割分担をどう考えるか、真剣に考える必要がある」




委員らが問題にしたのは、財政検証で示された将来推計の中で、特に基礎年金の所得代替率が下がったことです。

検証結果では、今年36歳になる世代が年金を受け取り始める平成55年度に所得代替率は50.6%(経済が標準的に成長するケース)で下げ止まりますが、基礎年金の所得代替率は26%です。

5年前から「基礎年金の水準が低い」との指摘はありましたが、さらに割り込みました。

現在の生活水準に照らしますと、満額で1人月額4.5万円(現在は6.5万円)を意味します。

実際に受け取る際には物価や賃金の上昇を反映するため、額面はもっと高くなりますが、物価も賃金も今の水準にみなすと、この数値となります。

基礎年金だけで暮らす世帯を考えますと、大きなダメージです。

基礎年金の水準低下は5年前の財政検証の際に兆しがありましたが、改革は手つかずになりました。

痛みを伴う改革を、厚労省も政治家も国民も回避したかったことが大きな要因です。

若い世代の年金にダメージが出たのと裏腹に、今年65歳を迎える世代の年金水準は62.7%となりました。

これは5年前の年金水準よりも高い数値で、現役世代の賃金に対する年金の価値が5年前よりも高くなったことを意味します。

デフレ下で賃金が低下する一方で、年金は賃金ほど下がらなかったためです。

現役世代が減る中、保険料負担が過大になることから、年金は水準を抑制する方向ですが、現実には上昇したもので、年金部会の委員からは「高止まりした給付水準を早く見直してほしい」と注文がつきました。

厳しい結果を踏まえ、改革の方向が問われます。

ただ、先行きは険しいようです。

まず、試算の前提になった指標が本当にこの形で推移するのかが危ぶまれます。

例えば、試算の前提では女性や高齢者の労働参加が進むことを織り込みました。

女性が出産後に離職して労働参加が落ち込む「M字カーブ」も解消すると見込んでいます。

ですが、年金部会ではこんな声も出ました。

「試算はM字カーブが改善され、ほとんど台形になる前提だが、これを変えるには、日本社会の考え方そのものを変えていくようなメッセージが必要。ちょっと保育園を増やすとか、学童保育を増やすとかいうことでは済まない」

年金の水準低下を食い止める改革案と試算が示されましたが、厚生労働省自身が「いずれもハードルは高い」と漏らします。

1つ目は、物価や賃金の伸びが低い場合でも年金の引き下げが発動されるよう、「マクロ経済スライド」を強化すること。

実施すると、経済が低成長で推移した場合でも、5%程度の所得代替率の改善が見込まれます。

額面が減るため、強い抵抗が予想されますが、これから年金を受け取る世代だけでなく、唯一、受給世代も痛みを分かち合う案です。

2つ目は、厚生年金の適用範囲を広げる案で、(1)中小事業所のパート(2)非適用の個人事業所-への拡大が挙がります。

非適用事業所に厚生年金を適用すると、所得代替率は6%を超える改善が見込まれますが、年金実務に携わる関係者はこう漏らします。

「実際問題として所得や報酬の把握ができるのか。個人事業所の中には賃金台帳や給与規定がないところもある。就業実態のない家族が社員になっていることもある。他への波及を考えると、本当に適用がいいのかどうか分からない」

3つ目は、基礎年金の加入期間を延長する案。

現在40年の加入期間を45年に延長する案で、こちらも年金水準が6%以上も好転しました。

いわば、働く期間を延ばして年金水準を維持する方法です。

制度発足以来、65歳男女の平均余命はほぼ2倍に伸び、受給期間も延びたことを考えますと、妥当な選択かもしれません。

年金制度の健全化には、収入を増やすか、支出を減らすかしかありません。

早い段階で実施できればダメージも小さいのですが、手をこまねいていると、後世代のダメージばかりが大きくなります。

所得代替率とは年金の水準を見る指標です。

現役男子の手取り収入を100とした場合、年金がどの程度に当たるかを示します。

年金額は実際には、個々人が納めた保険料や世帯構成によって異なるため、財政検証では、指標として「40年間平均的な収入だった会社員の夫と、専業主婦だった妻」のモデル世帯の年金を見ます。

年金水準の引き下げが予定される中で、最終的に所得代替率が50%を割らないことが1つの目安になっています。


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