宮崎駿監督の『風立ちぬ』が第71回ゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞にノミネート決定!

風立ちぬ
2013年7月20日の封切りからスタジオジブリの宮崎駿監督の長編劇映画引退作品として注目されてきた『風立ちぬ』ですが、12月12日(日本時間)夜に、第71回ゴールデン・グローブ賞の外国語映画賞 ノミネーション作品として選出されたことが明らかになりました。




スタジオジブリ作品のゴールデン・グローブ賞ノミネートは初めてです。

今回は英語字幕版での申請だったため、英語音声作品が対象の長編アニメーション映画部門の候補にはなりませんでした。

『風立ちぬ』は、宮崎駿監督が初めて自作で「泣いてしまった」という、大人のラブストーリーを描いたものです。

宮崎 駿

第二次世界大戦時に零戦の設計者として活躍した堀越二郎をモデルに、作家・堀辰夫の小説「風立ちぬ」をリンクさせ、主人公とヒロイン・菜穂子との恋、そして恋から愛へと成熟していく夫婦の絆を描いています。

ここまでの賞レースの結果を見てみますと、“アカデミー賞前哨戦”と目されているボストン批評家協会、ナショナル・ボード・オブ・レビュー、ニューヨーク映画批評家協会の3つで「最優秀アニメーション賞」を受賞しています。

さらに、ノミネートがすでに発表されている映画賞を見てみても、“アニメ界のアカデミー賞”と称されるアニー賞では「最優秀アニメーション賞」に、さらに宮崎駿監督が「脚本賞」の候補としても挙げられています。

2014年2月に行われるアカデミー賞では、日本からは『風立ちぬ』と同様のアニメーション劇映画の『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編]叛逆の物語』、『ももへの手紙』と共に「長編アニメーション部門」にエントリーされていて、この後正式な“ノミネート”を経て、ようやくオスカー像を手にすることができます。

今回のゴールデン・グローブ賞でのノミネートで、オスカー像への道が一歩前進したと言っていいでしょう。

また、第71回ゴールデン・グローブ賞にノミネート決定と同じ12日、スタジオジブリの次回作『思い出のマーニー』を米林宏昌監督が手がけることが発表されました。

>> 2014年夏公開のジブリ新作映画「思い出のマーニー」原作あらすじ

ハリウッド外国人記者クラブの会員による投票で決められる「ゴールデン・グローブ賞」の結果発表&授賞式はロサンゼルスにて2014年1月12日(日)に行われます。

米国では来年2月に公開される予定ですが、戦闘機のゼロ戦設計者が主人公のモデルであることや喫煙シーンが多いことなどを問題視する声も上がっています。

映画『風立ちぬ』は堀辰雄文学の本質にかなり迫っていると感じる理由

堀辰雄の小説『風立ちぬ』が原作であるのなら、どうしてヒロインの名前は「節子」でなくて「菜穂子」だったのか、疑問を持たれた人のために解説します。

堀辰雄の晩年に書かれた中編小説『菜穂子』という作品が別にあります。

宮崎駿監督は、『風立ちぬ』だけでなく、その『菜穂子』の要素も加えてヒロインを造り上げたので「節子」ではなく「菜穂子」という名前が与えられたのだと思います。

小説中の「菜穂子」ですが、堀辰雄自身が闘病していたこともあり、また実際に婚約者をその病気で失ったという経験もあることから、この「菜穂子」も肺結核と闘病する女性として描かれています。

ですが、小説『風立ちぬ』の節子が、「婚約者である私」に愛されつつ若くしてこの世を去る「純愛と薄幸」のキャラクターに単純化されているのと比較すると、小説『菜穂子』の主人公は全く違う複雑性と深み、そして「女性としての強さ」を与えられているのです。

この小説の「菜穂子」は既婚女性です。

旧姓は三村ですが、結婚して黒川菜穂子という名前になっています。

そして肺結核に感染して、映画でも出てきた八ヶ岳山麓の富士見高原病院(サナトリウム)に入院します。

夫の黒川氏という人物は、菜穂子のことを愛しており、菜穂子もそのことは分かっているのですが、嫁姑の関係がうまくいかない中で夫婦仲も冷えているという設定です。

人生における困難を抱え込んだ中で、菜穂子は高原で療養しているわけですが、そこに1人の男性が訪ねてきます。

それは、昔、長野県の追分の高原で出会った幼なじみの都築明という人物でした。

この都築という男性は、若き日の堀辰雄自身、つまり小説『風立ちぬ』や『美しい村』に出てくる男性のようなキャラクターとして設定されています。

建築事務所で設計士をしており、その点でおそらくは詩人の立原道造がモデルという説がありますが、いかにも「堀辰雄作品に出てきそうな」線の細いキャラです。

山奥の療養所まで都築は菜穂子を訪ねて来るのですが、もしかしたら「淡い何か」が起きそうな気配はあるものの、結局は何もないまま都築は去って行きます。

そこで菜穂子は都築への失望感も作用する中で、自分の夫である黒川に無性に会いたくなり、勝手に療養所を抜け出して中央本線に乗って新宿に出てきてしまうのです。

では、夫との愛情が劇的に復活するのかというとそうでもないわけで、人生の苦しみから救済されるということにはならないのですが、この「勝手に抜け出して中央本線で新宿に帰ってくる」という菜穂子の行動で、堀辰雄は新しい時代の女性のエネルギーであるとか、苦悩を背負う「個の輝き」の表現に成功しているように思うのです。

宮崎駿監督は、映画のクライマックスでこの「菜穂子の療養所抜け出し」というエピソードを取り込んでいます。

その毅然とした姿は「菜穂子」であって「節子」ではないのです。

これがヒロインの名前の背景にある理由だと思います。

そして、この映画のファンになった方々には、原作として堀辰雄作品に触れる際に『風立ちぬ』だけでなく、『菜穂子』を読まれることを強くお薦めします。

映画の方の「菜穂子」は、勝手に療養所から抜け出したというエピソードの後に、極めて美しい幸福な時間を与えられています。

これは宮崎駿監督のファンタジーなのですが、薄幸であった堀辰雄作品のヒロインたち、例えば「節子」とか「菜穂子」といった女性たちへの宮崎駿監督なりの愛情なのだと思います。

また、映画の主人公である堀越二郎の風貌には、都築明っぽさも反映されて入っているように思われました。

ちなみに、黒川という名前は映画の中では主人公を公私ともに支える人情味あふれる「上司夫妻」の名前として出てきますが、この名前は小説では菜穂子の夫の名前であり、不器用なこの小説中の男性にも宮崎駿監督はある種の共感を寄せているのかもしれません。

冒頭で描かれる関東大震災のシーンについては、少なくとも堀辰雄は被災して幼くして母親を失っているわけですが、映画中で主人公の周囲がとりあえず震災で助かるという表現には、宮崎駿監督の堀文学への優しい視点があるように思います。

映画に出てくる軽井沢の「草軽ホテル」というのは「三笠ホテル」のことだと思います。

昔この辺を草軽電鉄と言う軽便鉄道が通っていたことの反映でしょう。

草軽ホテルで、この地の名物であるクレソンの山盛りのサラダを食べていた男性は、カストルプという名前を与えられているように、トーマス・マンの小説『魔の山』に関連づけられていますが、私にはこの男は「リヒャルト・ゾルゲ」であるように思われました。

いずれにしても、私はこの『風立ちぬ』で宮崎駿監督は堀辰雄文学の本質にかなり迫っているように思います。

『風立ちぬ』宮崎駿監督、アニー賞脚本賞を受賞

現地時間2014年2月1日、第41回アニー賞授賞式がアメリカ・ロサンゼルスで行われ、『風立ちぬ』の宮崎駿監督が脚本賞を受賞しました。

宮崎監督は2002年度(第30回)のアニー賞を作品賞・脚本賞などの4部門で受賞していて、今回が11年ぶりの受賞となります。

しかし授賞式では宮崎監督の名前が呼ばれても、誰もステージに現れないというハプニングが発生しました。

そのため、プレゼンターが「『風立ちぬ』の受賞者は立ち上がらなかったようですね」とジョークを飛ばし、式の進行が再開。

トロフィー授与や受賞スピーチは行われませんでした。

アニー賞は、国際アニメーション協会(ASIFA)が主催する映画賞で、アニメーション界のアカデミー賞ともいわれる賞です。

作品賞や監督賞だけでなく、声優賞や絵コンテ賞などが設けられているのが特徴的です。

宮崎監督は昨年も『コクリコ坂から』で脚本賞にノミネートされていましたが、そのときは受賞を逃していました。

『風立ちぬ』はゼロ戦の設計者・堀越二郎の生涯と堀辰雄の小説「風立ちぬ」を題材に、飛行機作りに情熱を燃やす青年の生きざまを描いた作品です。

『風立ちぬ』は第86回アカデミー賞長編アニメ賞にもノミネートされています。


カテゴリー: トレンドニュース パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。