安住淳衆議院議員
民主党の安住淳衆議院議員(元財務相)はロイターのインタビューに応じ、日銀の異次元緩和に対して世界の専門家はリスクを感じていると指摘。

追加緩和は「危険水域」入りと自覚すべきだと警告しました。

異常な緩和措置には、金利急騰リスクに加え、低所得者層の犠牲の上に成り立つ危うさがあると述べ、大胆な金融緩和は長く続けるものではないと政府・日銀をけん制しました。

「2年で2%の物価上昇率」を目指す日銀の物価安定目標について、安住氏は「2%目標を達成することは重要だ」としながらも、「無理に背伸びして、高下駄をはき、転ぶごとがあってはならない」と述べ、これ以上の緩和強化に懸念を示しました。

アベノミクスの出発点は、政府が財政健全化から逃げていないとの認識が浸透したことだったとし、2015年10月に予定される消費税率10%への引き上げを前提とした財政健全化シナリオから外れ、「財政再建をする意志がないと思われた途端、国債金利が急騰するリスクを抱えてしまう」との懸念を示しました。

重要なことは異次元緩和で稼いだ時間で規制改革や構造改革を進めることだとしましたが、不人気な政策には距離を置く現政権の政権運営は「究極のポピュリズム政治」だと批判しました。

インタビューは3月27日に行いました。

詳細は以下の通りです。

――黒田日銀の1年をどう評価するか。成果と副作用について。

「『2倍政策』と称して国民や世界に分かりやすく大胆な金融政策を行うという打ち出し方は、これまでの日本政府・日銀の伝統的手法と異なり、非常にインパクトがあり、低い水準にあった株価を引き上げた効果はあった」

「ただ、本来、このようなアプローチは好ましいとは思わない。時間を稼ぐための政策でしかない。だからこそ、米連邦準備理事会(FRB)はイエレン議長体制で市中から資金の吸い上げを始めた。(量的金融緩和は)長くは続けられない政策だということを自覚しているからこそ、中長期的にみて健全性を確保するためのFRBの決断は当然だと思う」

「翻って、日本の場合、マネタリーベースは今200兆円を超えている。米国も大胆な金融緩和をしたというが、数量で言えば、日本円に換算して400兆円程度だった。財政規模や経済規模からいって、日本の200兆円がいかに異様な数字かということが分かる。そして、さらに270兆円まで積み上げていくという」

「これは、非常に重篤な患者に栄養剤をずっと投与することで少し元気に見せているだけであって、日本が抱えている病の根治治療になるかというと、そうでもない。つまり、根治治療までの時間を稼いでいるだけだ。結果が伴ってこないと、副作用だけが出てくる可能性がある」

「現に市中にこれだけの資金を出しても、思ったほど設備投資が増えているわけでもない。経済発展につながっていくところへの投資が薄い。市中銀行などが日本国債を手放し、日銀が引き受けた分だけ、少し上がり始めた株で利益を上げている。本業のもうけとは言えない。この状況を延々と続けるわけにはいかない」

「今度は政府の仕事になるが、抜本的な根治治療をやって世界の投資家から魅力ある日本の市場、魅力ある企業を作っていく。大胆な金融政策はそう長く続けるものではない。その限られた時間の中で進めていかなければならない」

「正常な形に1日も早く戻すためにも、金融緩和の期間はできるだけ短い方がよい。その間に政府が規制緩和なり、日本の古い風習や習慣の中で経済活動を阻害している部分についてきちんと結果を出していかなければ、結果的にアベノミクスも失敗する。大胆な金融緩和によるリスクだけを背負う危険な状況にあっという間に陥ってしまう恐れがある」

――異次元緩和の成果は株価上昇以外に認められないということか。

「為替が(1ドル)100円台まで戻ったことで、基幹産業の自動車が高い収益を上げることができた。相乗効果が出ていることは事実だ」

「しかし、日本の場合、自動車の『一本足打法』と言われるくらい、他の産業が育っていない。高齢化社会の中で次世代を担う産業が育っていかない。新しい産業を興していくことがなければ、これだけの超高齢化社会で世界に伍していくことは難しい」

――「2年・2%目標」が達成できない場合、市場では追加緩和の可能性が指摘される。一段の緩和はすべきでないとの立場か。

「市場関係者は国の財政問題を考えて意見を言っているというより、自分たちの利益のために言っている人が多い。出口を含めて考えていかないと、取り返しのつかないこともあり得る。国債金利が急騰するリスク。もうひとつのリスクがバブル。日本には、使い場のないカネが無用な土地投機に走りバブルを引き起こした先例がある。だぶついた金がどこに暴走するか分からない怖さがある」

「おのずと、市中に出す通貨の量には適正規模がある。それを超えたものをどんどん出すことは、結果的には、国債を日銀が引き受ける比率を高めるということだ。今現在ですら、財政赤字の対GDP(国内総生産)比で、第2次世界大戦後の昭和20年代前半と同じ水準まで財政赤字が悪化していて、これ以上国債引き受けをさせたら、軍費調達した戦前の軍部のやり方と同じようなことになる」

「国債の消化を一定規模日銀に背負わせることは、財政を硬直化させる。本来、やってはいけない政策だ。地道に財政再建を進め、国民にとって決して人気のある政策ではないが、健全性を高めていくことだ。国債をきちんと市中に出し、世界から評価される国債の価値を守っていくことは大事なことだ」

<2%目標達成は重要だが、背伸びは禁物>

――2%の目標達成にこだわるべきではないということか。

「2%目標を達成することは重要だ。しかし、そのために、無理に背伸びして、高下駄をはき、転ぶことがあってはならない」

「賃金の上昇が中小企業含めて見込めないなか、人工的に2%インフレを作りだすということは、国民生活にとっては非常に厳しい状況になる。インフレ進行は、健全な経済成長や賃金上昇が伴っていけばよいが、伴わない場合、低所得者ほどその影響・しわ寄せが来る。そこに目配りしなければ、数字だけ達成して『良かった』とはならない」

――追加緩和した場合、為替操作との批判を浴びる恐れはないか。

「世界の中で、経済運営をやっている多くの専門家が、この異常な状態を続けることのリスクを感じ始めている。一段と緩和することは、極めて危険な水域に入ると思うのが自然。200兆円を超えるカネを市中に出すことは、今でも相当なリスク。そのことを自覚すべき」

「大胆な緩和をさらにやるということは、単にもう少し時間を稼いで手術を待つだけ。執刀医の安倍さんが、何を取り除かなければならないか分かっていないのが深刻だ」

<安倍政権運営「究極のポピュリズム」>

――安倍政権の経済・財政運営はどう映るか。

「手品みたいなことに頼って、国民を驚かせて、あたかも良くなったかのごとく見せかけているが、財政状況の悪化に歯止めをかけていない。中長期に日本の財政状況を考えると、社会保障分野に大ナタを振るわなければならないのに、選挙のことを考えるとやれないのだろう。不人気な政策でもやらなければならないことがあるが、そういうアプローチをする意志は、安倍さんにはない」

「究極のポピュリズム政治だ。市場に喜んでもらう大胆な金融緩和をする。確かにインパクトがあってよいが、国民の低所得者層の犠牲の上に成り立つ可能性が高いということを言いたい」

「消費税の問題も単に、経済の落ち込みばかり議論している。長い目で、高齢化社会の中で年金・医療・介護をどう担保していくかは、財政を健全化する上で避けて通れない問題だ。消費増税は国民に負担を求めるわけで、景気が良くなる話とは思わないが、消費税の問題を景気の良し悪しだけで判断すること自体、財政や社会保障のことに力点を置いていないということを表している」

「株価が上がったのは、消費税率引き上げを民主党政権で決め、財政健全化に明確なアプローチを示し、日本が財政再建から逃げないということが伝わったからで、ここに今のアベノミクスのスタートがある。消費税を10%にすることによって、プライマリーバランス(基礎的財政収支)を2020年に均衡させることを国際公約した。このプログラムから外れたことをし出した時、財政再建をする意志がないと思われた途端、国債金利に何等か影響することは否定できない。金利が急騰するリスクを抱えてしまう」

「厳しいが、財政再建をしながら、税収を上げていく。一方で、金融緩和はやるがいつまでも続けるのではなく、最終的には米国を見習って少しずつ金利を正常な状態に戻すような形にしていく。その間に規制緩和を行い、企業が変貌を遂げて、世界の中で再び戦えるだけの企業になっていく」