マウンテンゴリラ
私たち人間は肉や魚も食べれば野菜も木の実も食べる雑食哺乳類ですが、消化管の構造を見る限り、本来は肉食だったと考えざるをえないようです。

植物を主な食料としている哺乳類はどれも、消化管の一部が著しく大きくなるという共通点を持っていますが、人間の消化管にはそのような変化は見られないからです。

つまり、人体の消化管を眺めると、胃も結腸も盲腸も拡大している部分はなく、一般的に言えば完全ベジタリアン生活には適さない消化管構造と言えます。

逆に、同じ霊長類でも、マウンテンゴリラやオランウータンは基本的に草食です。

マウンテンゴリラの主食はツルイラクサのツルであり(つまり、ゴリラの主食はバナナというのは誤り)、オランウータンの主食は樹木の樹皮です。

そのため、マウンテンゴリラは巨大な結腸を持っています。

野生のゴリラは基本的にあまり移動を好まない動物で、主食のツルが大量に生えている場所から動かずに食べ続ける生活のようです。

ゴリラは結腸発酵型草食動物の宿命として、主食から得られるエネルギー量が充分でないため、動かずに食べ続ける生活様式を選んだのでしょう。

話を人間の消化管に戻しますと、人間の下部消化管(大腸)には数百種類、100兆個の腸内細菌が生息しています。

人間の体細胞の数がおよそ60兆個ですから、数の上では体細胞より腸内細菌のほうが遥かに多いわけです。

とはいえもちろん、細菌の平均サイズは1ミクロンで、人間の細胞より遥かに小さいため、100兆個の細菌を全て集めても、せいぜい1.5kg程度です。

ちなみに、人間の糞便の重量の半分以上は腸内細菌であり、これは「食物のカロリー測定法」

食物の熱量=(食物を空気中で燃やして発生した熱量)ー(同量の食物を食べて出た排泄物を燃やして発生した熱量)

が、最初の前提からして間違っていることが分かります。

糞便の半分以上が、食物と無関係の腸内細菌なのですから、いくら精密に発生熱量を測定したところで、正確な値が得られるわけがないのです。

そして、大腸の腸内細菌は、人(=宿主)の生存に極めて重要な役割を果たしています。

1つは、外部から侵入した病原菌の増殖抑制と排除機能であり、もう1つは、栄養産生機能ですが、ここでは後者について説明しましょう。

たとえば、腸内細菌はビタミンKも産生しているため、成人では腸内細菌からの供給で、必要十分量のビタミンKを得ることができます(つまり、食事からビタミンKを摂取する必要はありません)。

同様に、掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)の治療で注目されているビタミンB₇(ビオチン)も腸内細菌から供給されているため、通常は欠乏症は発生しないとされていますし、ビタミンB₆(ピリドキシン)、ビタミンB₃(ナイアシン)、ビタミンB₉(葉酸)も、腸内細菌が産生しています。

同様に、腸内細菌は短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)も生成していて、人間はそれを吸収して栄養にしています。

これらの事実から、「人間が食べ物として摂取した栄養素・カロリー数」と「人間が腸管から吸収して得ている栄養素・カロリー数」は一致していないことが分かりますし、少なくとも短鎖脂肪酸の量はゼロにはなりません。

このように、草食動物、肉食動物、雑食動物を俯瞰(ふかん)してみますと、草食動物は、複雑な構造の巨大な消化管が必要ですが、自前で作らないといけない消化酵素は少数で済みます。

一方、肉食動物は、消化管の構造そのものは単純ですが、獲物を捕らえるための強力な運動器を備える必要が生じます。

雑食動物は、食べられる食物の種類が多いので、環境の変化に対応できますが、食物の種類が増えるに従って、消化管の構造は肉食動物より複雑になりますし、自前で準備しないといけない消化酵素の種類も増えてきます。

要するに、どこかをシンプルに抑えようとすると、別のところが複雑化するという、一種のトレードオフのような関係になっていると思われます。