ブドウ糖
大量のエネルギーを常時消費する器官なら、より効率の良い脂肪酸を利用する方向に進化した動物が出現してもよさそうなものです。

なにしろ、ブドウ糖と脂肪酸では、好気性代謝で得られるATPの数は、脂肪酸のほうが数倍多いからです。

そして実際、骨格筋や心筋は、脂肪酸をエネルギー源として使っています。

もちろん、脳神経細胞が直接脂肪酸を取り込むことは、脳の機能維持に不都合だという理由はありますが、それにしても、脳神経の支持細胞が脂肪酸を取り込んで、エネルギーだけ神経細胞に渡すなどの進化があってもよさそうなものです。

そうすれば、何もわざわざ、タンパク質を分解して糖原性アミノ酸を作り、そこからブドウ糖を合成して・・・というような面倒なことはしなくていいのに、なぜ、こんな面倒なことをしているのでしょうか。

唯一考えられる可能性は、「脳(中枢神経系)は多細胞生物進化の早い段階で完成し、その当時の最先端システムであるブドウ糖を利用する代謝システムを採用しましたが、その後、他の組織が脂肪酸という最新鋭システムに乗り換えた時に、変化に乗り損ねてしまった」というものです。

地球上の生命体の進化の歴史を見ていきますと、体の構造やシステムの根本的抜本的改造はなるべく避けたい、という傾向があることが分かります。

要するに、なるべく変えたくないし、変えざるを得ないとしても現在あるものをやりにくく算段して新しい器官を作っています((例:エラの開閉から顎関節を作り、顎関節をやりくりして耳小骨(じしょうこつ)を作る、など))。

根本から構造を変えるのはリスクが高く、うまく機能してくれなければ命取りになります。

それなら、現在うまく動いている器官や組織を少しずつ改変して、新しい機能を持つ器官を作ったほうが得策です。

最初期の生命体にとっては、水素や硫酸化水素をエネルギー源にするのが最先端でした。

その後、大気中と海水中の酸素濃度が上昇すると、酸素を使うシステムは旧タイプとなり、彼らは酸素のないところに逃げ込むしかありませんでした。

ブドウ糖代謝も同じで、酸素のない時代に嫌気性代謝が一世を風靡(ふうび)しましたが、その後に好気性代謝が流行の最先端になりました。

この時代に誕生したのが分散神経系(のちの中枢神経の原型となる神経系)だったのだと私は考えています。

つまり、分散神経系は、当時最先端のブドウ糖好気性代謝エンジンを搭載(とうさい)しました。

ですが、時代が移り、脂肪酸代謝からエネルギーを得るという大出力・ハイパワーエンジンが開発されました。

それと同時に、ブドウ糖好気性代謝は旧時代のものとなりました。

この新時代に完成した器官が筋肉であり、筋肉は新旧両方のシステムに対応したハイブリッド型エンジンを搭載していました。

しかし、中枢神経系がこの新型エンジンを搭載するには、中枢神経の基本設計から見直さなければならなくなりました。

いかに大出力で燃費の良いエンジンであっても、そのために車体すべてを作り直すのは あまりにリスクが大きすぎます。

それでしたら、ちょっと旧式でも、安定して動く「枯れた技術」を大事に守って使い続けるほうが合理的です。

無理に新型に切り替えて動かくなったら、それこそ元も子もありません。